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要点
午後11時、あなたはニュースをスクロールし、ふと恐怖が込み上げる。そして、自分は安全だとわかっている。わかっていても何も変わらない。これは更新世の仕組みが、間違った世界で正しく作動しているのだ。エンゲージメントで順位づけされるフィードは、それを利用することを覚えた。否定的な単語が一つ増えるごとに、典型的な見出しのクリック率は約2.3%上昇した。意志の力は、頼るべき主たる手段ではない。環境を設計し直すほうがうまくいく。将来の昇給分を前もって約束させるある退職年金プログラムは、貯蓄率を3.5%から13.6%へと引き上げた。規制当局はようやくフィードの設計に手をつけ始めたところだ。タバコのときの遅れは数十年に及んだ。
目次
昨夜、午後11時ごろ、あなたはおそらく、神経系が「危険」に分類する何かをしたはずだ。ニュースを読んだか、Xをスクロールしたか、一度も会ったことがなく、これからも会うことのない誰かからの通知を受けてスマートフォンを確認したか。そして恐怖や苛立ちが一気に跳ね上がるのを感じた。脅威を告げる低いうなりは、本来あるべきよりもずっと長く居座った。あなたは安全で、安全だとわかっていて、それでもわかっていることは何の役にも立たなかった。
これは不安障害でも弱さでもないし、デジタル時代に特有の現象でもない。もっとも、デジタル時代がそれを大幅に悪化させたのは確かである。ほとんどの人にとって、これは脳がまさに作られたとおりに働いた結果、予測どおりに出てくる反応なのだ。ただ、その脳が置かれた環境は、脳を作り上げた環境とあまりにかけ離れているため、仕組みが恒常的な誤作動を起こしている。
この問題を語るとき、定番の枠組みは「バイアス」という言葉に手を伸ばす。ネガティビティ・バイアス、楽観バイアス、確証バイアスといった具合に、あたかも脳がおおむね正常に機能する道具で、そこに記録済みの不具合の一覧が付いているかのように。バイアスという言葉は正しい機能からの逸脱を含意するが、進化の記録が指し示すのは、正しい機能が誤った文脈で作動している姿である。これを進化的ミスマッチと呼ぶ。あなたが暮らす環境は、その中で動いている心のことなど考慮せずに作られたのである。
理論的枠組みを築いたのはジョン・トゥービーとレダ・コスミデスである。脳は汎用の推論機械でも、文化が書き込む白紙でもなく、領域固有の心理メカニズムの集合体であり、その一つひとつが固有の進化史をもち、特定の環境で特定の問題を解くよう淘汰によって形づくられている。その環境には名前がある。「進化的適応環境」である。精神科医ジョン・ボウルビィが提唱し、トゥービーとコスミデスが発展させた用語だ。私たちの心の仕組みの大半にとって、それは更新世、すなわちおよそ250万年前から約1万2000年前までの期間だった。それ以降の1万2000年は、その長い期間のほんのひとかけらにすぎない。
ミスマッチが現実のもので、その代償が大きいのなら、農耕、次いで工業、さらにデジタルの環境の中で1万2000年にわたって働いてきた淘汰圧が、なぜもっとうまく調整された脳を生み出さなかったのかと問うのは当然だろう。
答えの一部は、淘汰が何に報いるかにある。淘汰が作用する対象は特定の環境における繁殖成功であって、幸福や合理性や苦しみではない。あなたを不安にさせ、気を散らせても、あなたの遺伝子を遺伝子プールにとどめたメカニズムは、淘汰の観点からすれば成功なのである。より大きな理由は速度だ。生物学的進化は文化の変化に追いつけない。文化と技術の変化はいまや数年から数十年の時間尺度で進む。自然淘汰は単純な形質なら素早く調整でき、ヒトの適応進化は過去4万年のあいだに加速もした。だが加速した淘汰でさえ一世代ずつしか働かず、それも淘汰圧が強く、一貫していて、個体間に差を生む場合に限られる。一方で文化は、一人の生涯のうちに環境を何度も作り変えてしまう。農業革命はおよそ500世代前、産業革命は10世代前、インターネットは1世代前の出来事である。
これは遺伝決定論ではないし、変化の可能性を閉ざすものでもない。この議論が行き着く先は環境の再設計である。このパターンを最も鮮明に示すメカニズムが三つある。いずれも現実の問題に対する進化上の解決策でありながら、いまでは誤作動を起こしている。
ネガティビティ・バイアスとアテンション・エコノミー
コルチゾールは副腎皮質で合成され、知覚された脅威に応じて放出される。脅威から数秒以内に全身にあふれるアドレナリンと連携して、コルチゾールは血糖値を上げ、消化、免疫機能、生殖生理といった当面は必要のない機能を抑え込み、脳が危険を感じているあいだ体を警戒態勢に保つ。ロバート・サポルスキーがキャリアをかけて研究してきた問題は、コルチゾールを放出する系が、急性で身体的な脅威と、慢性的で象徴的な、画面を通じて届く脅威とを区別できないとき、何が起こるかである。
サポルスキーの中心的な観察は、ヒトをほかの大半の動物から隔てる一点を示している。それは私たちにとって不利に働く点だ。私たちは思考によってストレス反応を起動できるのである。シマウマのストレス反応は、ライオンが現れると急上昇し、ライオンが去るか、シマウマが逃げ切ると収まる。脅威は本物で、そして過ぎ去る。ヒトは同じ生理的連鎖反応を、別の国で他人の身に起きたライオンの襲撃について読むことで、まだ起きてもいない気の重い会話を予期することで、あるいは何年も先の脅威や純粋に仮定上の脅威をくよくよ考えることで、起動させてしまう。どちらにせよ、反応は起こる。
これは、記号的推論と未来のモデル化ができる脳を持つことの代償である。ヒトに計画を立てさせ、協力させる認知能力こそが、ヒトを慢性的なストレス活性化にとりわけ弱くしている。その下流の影響は身体に及ぶ。慢性的に高いコルチゾールは免疫機能を抑制し、心血管の損傷を早め、記憶の固定を損ない、睡眠構造を乱す。さらに、クッシング症候群や重度の反復性うつ病のようにグルココルチコイドの過剰が長引く状態では、測定できるほどの海馬の縮小と結びついている。
捕食者、敵対する集団、汚染された食物、けがといった脅威が身体的で、局所的で、目前に迫るものだった環境では、負の刺激に偏って注意を向けることはきわめて適応的だった。脅威を見逃せば命を落としかねない。機会を見逃しても、たいていは一食を失うだけだった。脳はそれに合わせて進化した。負の刺激は正の刺激よりも速く知覚され、より多くの神経処理資源を動員し、記憶にも刻まれやすい。もっとも年月がたつと、嫌な記憶の感情的な痛みは、良い記憶の温もりよりも速く薄れる傾向がある。注意、記憶、学習から社会的評価、感情体験に至るまで、これまで調べられたヒトの心理のほぼあらゆる領域で、悪いことは良いことよりも強い。ネガティビティ・バイアスはヒトの基準値であり、不安を抱える人や抑うつ状態の人だけでなく、平静な人にも備わっている。
アテンション・エコノミーは、この基準値の上に築かれている。エンゲージメントを最適化するプラットフォームがネガティビティ・バイアスを発明したわけではないが、そのランキング・システムはそれを利用することを学んだ。Upworthyで行われた数千件の見出し実験では、否定的な単語が一つ増えるごとに、典型的な見出しのクリック率が約2.3%上昇した。政治的な外集団についての投稿は、ほかの投稿よりもはるかに拡散されやすい。2017年以降、Facebookのランキング式は、「怒り」を含む絵文字リアクションを「いいね」の5倍の価値として数えた。2023年初め、Twitterのエンゲージメント型ランキングは、単純な時系列フィードと比べて、感情を強く揺さぶり、外集団に敵意を向けるコンテンツを増幅していた。こうしたことはどれも、誰かが怒りを広めようと意図する必要などなかった。現実の人間の行動を相手にエンゲージメントを最適化するだけで十分だったのである。しかもそれは、かつてのどんな情報環境も足元にも及ばない規模と精度で行われた。
動物行動学者ニコ・ティンバーゲンは、動物の進化した反応が、その反応の調整対象となった特徴を誇張した刺激によって引き起こされるとき何が起こるかを記述した。自分の卵と巨大な人工の卵を並べて差し出されたミヤコドリは、巨大な卵によじ登り、ほとんど座ることもできない卵を抱こうとする。大きいものを好む性質が、もはや現実の何ものにも対応しなくなるところまで利用されているのだ。別の一連の実験では、親鳥のくちばしにある赤い斑点をつついて餌をねだるセグロカモメのひなが、写実的なカモメの頭の模型よりも、白い帯の入った細い赤い棒のほうを多くつついた。生得的解発機構が、本来検出するように進化した刺激よりも、誇張された高コントラストの信号に強く反応したのである。ティンバーゲンはこれらを超正常刺激と呼んだ。エンゲージメントの最大化が生み出す情報環境は、ヒトの脅威検出システムにとっての超正常刺激である。それは80億人という世界の人口の中から選り抜かれ、エンゲージメントを基準に、つまり実際には脅威と怒りが報われるかたちで選別された最悪の出来事を絶え間なく届け、祖先の環境で危険の知らせが届いたときよりもはるかに頻繁に、はるかに強い力で押し寄せる。根底にあるシステムがこれに対する防御をほとんどもたないのは、脅威の知らせが近くから、時おり、知り合いを通じてやってくる世界で調整されたからである。
暴力による死亡率が低く、平均寿命が長く、食料の入手が種の歴史上のどの時点よりも確かな、記録に残る人類史の中でも最も安全な社会の一つに暮らす人が、ニュースとソーシャルメディアからなる、ごく標準的な現代の献立を日々口にしていれば、本物の緊急事態のために設計された脅威反応システムを、常時稼働の背景状態として走らせることになりかねない。その人の神経系は、人為的に設計された刺激環境に正しく反応して、世界は危険で、悪化しつつあると告げるのである。
地位の回路と無限の聴衆
1990年代初め、人類学者で進化心理学者のロビン・ダンバーは、霊長類の新皮質の大きさに関するデータの中にあることを見つけた。彼が調べた霊長類の種全体で、脳のほかの部分に対する新皮質の体積の比率と連動していたのは、環境の複雑さでも、道具の使用でも、採食戦略でもなく、社会集団の大きさだったのだ。これが「社会脳仮説」である。いまも影響力をもつが、のちのより大規模なデータセットは、食性も少なくとも同じくらい重要であることを示唆している。新皮質が大きいほど、その種が維持する安定した社会集団も大きい。ダンバーはヒトの新皮質比を霊長類の回帰直線に当てはめ、ひとつの数字にたどり着いた。約150である。彼の主張によれば、それは一人の人間が同時に維持できる、意味があり、信頼に基づき、社会に埋め込まれた関係の相手の数であり、全員が誰なのか、互いにどんな関係にあるのか、そのなかで自分がどこに立っているのかを把握できる人数なのだという。
ダンバーはそれから現実の人間集団にこの数字を探しに行き、それが組織のある特定の階層で繰り返し現れることを見いだした。狩猟採集民や伝統的な農耕民のクラン、すなわち村落共同体は、彼の標本では平均約150人で、一緒に野営する30〜50人のバンドの一段上に位置する。新石器時代の農村、古代ローマのマニプルスと現代の軍隊の中隊、そして経営の世界の言い伝えで、企業が公式の階層構造を必要とし始めるとされる規模もそうだ。ダンバーはこれを認知負荷の限界、つまり霊長類の社会追跡機構の処理能力が尽きる点と解釈する。正確な数字には異論がある。のちに霊長類のデータを再分析した研究では、信頼区間があまりに広く、最も広いものは4から520にまで及んだため、著者らはいかなる単一の数字を求めることも無意味だと述べた。ダンバー自身の信頼区間も、およそ100から230にわたっていた。それでも核心となる洞察は生き残る――脳が追跡するように進化したのは、数十人からせいぜい数百人の顔見知りの共同体であって、数百万人ではない。
祖先の環境では、地位とは、既知の集団の中で自分が占める位置を絶えず測り続けた値だった。その集団の人々が自分をどう思うかは、食料、配偶相手、同盟の支援、保護へのアクセスに直結していた。知覚された社会的順位を体のストレスや気分の化学に結びつける脳の地位監視システムは、その環境に合わせて調律された。順位が高いと感じれば、自信、リスクテイク、社会への積極的な関与に向いた神経化学的状態が生まれた。順位が低いと感じたり、順位が不安定だったりすれば、その逆が生じた。このシステムが休みなく動いていたのは、祖先の環境では順位が絶えず変わり、変化を見逃せば現実の結果を招いたからである。
ケニアのヒヒの群れを対象としたサポルスキーの長期研究は、社会的順位が哺乳類の体に何をもたらすかについて、私たちが手にしている最も詳細な生理学的データの一つである。安定した階層では、低順位のヒヒは慢性的に高いコルチゾール値を示し、ストレス後の回復が鈍く、血圧が高く、免疫機能が抑制されている。階層が流動的なときには、コルチゾールの負担は、下から地位を脅かされている高順位のオスへと移る。サポルスキー自身、ヒトとの類似を指摘している。霊長類における低順位の健康コストは、ヒトの健康の社会経済的勾配、すなわち底辺にいる人々ほど心血管疾患などの重い負担を背負うという構図と重なる。どの個体が代償を払うかは階層の組織のされ方によって異なるが、どの形であれ、慢性的な社会的ストレスは身体をむしばむ。
今日、それらの回路はまったく異なる入力で動いている。顔見知りの共同体のために作られた地位監視システムが、原理的には無限の聴衆からシグナルを受け取っているのだ。フォロワー数、いいね数、コメントでの反応、リポストの速度は、いずれも公開された地位のシグナルとして働く。脳は、自分の生存や同盟へのアクセスに直接かかわる意見をもつバンドの仲間と、別の国の見知らぬ人とを区別でき、友人の反応のほうを重んじる。それでも、一度も会ったことがなく、その意見が何にも影響しない人からの通知でさえ、社会的なシグナルとして受け止められうる。
規模のミスマッチだけでも、方向感覚を失わせるには十分だろう。百人ほどの集団の中で自分の位置を追跡するよう作られた生物は、数百万人の聴衆から意味のある順位情報を処理できない。シグナルはノイズとなり、比較対象の集団には安定した上限がなく、「全員」に対して自分がどこに立っているかという問いは、答えようがない。そのうえ、配信の仕組みそのものが、地位にかかわる出来事の頻度と感情的強度を最大化するよう設計されている。報酬が予測できない回数の試行の後にやってくる変動比率の報酬スケジュールは、古典的な強化スケジュールのなかで最も高く安定した反応率を生み、消去に対して最も頑強に抵抗する。毎回必ず品物が出てくる自動販売機よりも、スロットマシンのほうが人をのめり込ませるのはこのためである。上下するフォロワー数、予測できない波となって押し寄せる反応、いつ何時でもバズによる注目か公衆の面前での屈辱かのどちらかが訪れうる可能性――これは、個人的に知る人々から受け取るあらゆるシグナルを強烈に気にかけるよう進化した地位の回路を相手に、変動報酬スケジュールが稼働している状態なのである。
Facebookの初代社長ショーン・パーカーは2017年、これが意図的な設計であったことを公の場で語った。目標はユーザーの時間と注意をできるかぎり多く消費することであり、いいねやコメントは「ちょっとしたドーパミンの一撃」を与え、システム全体は「人間の心理の脆弱性」を突く「社会的承認のフィードバック・ループ」だった――それも承知のうえで。ビジネスモデルは持続的な注意を必要とする。持続的な注意への確実な道筋の一つは脳の地位監視システムを通っており、そのシステムを絶えず活性化させておけるだけの頻度と予測不能性でシグナルを送り届ける。これが、サポルスキーがストレスにさらされたヒヒで記録したような生理的な犠牲に近いものをユーザーにもたらすかどうかは確かめられていないし、大規模な標本全体で見れば、スクリーンの使用と幸福との平均的な関連は小さい。それでも、パーカーが語ったのは、まさにその地位のシステムを意図的に狙った設計である。
双曲割引と文明の時間軸
標準的な時間割引の実験では、参加者は、今すぐもらえる小さな報酬と、あとでもらえる大きな報酬のどちらかを選ぶよう求められる。リチャード・セイラーの古典的な思考実験は次のようなものだ。1年後のリンゴ1個と、1年と1日後のリンゴ2個を提示されれば、1個のほうを選ぶ人はまずいない。今日のリンゴ1個と、明日のリンゴ2個を提示されれば、今日の1個を選ぶ人はたくさんいる。同じ1日の遅れ、同じ報酬の倍増――それなのに選択はひっくり返る。この矛盾は算数を知らないせいではない。実験室研究でもフィールド研究でも繰り返し見いだされてきたもので、食べ物、労力、快楽のような即時の体験で最も強く、金銭ではもっと控えめに現れる。
多くの選択において、割引率は時間を通じて一定ではなく、おおむね双曲線を描く。近い将来の遅れに対しては不釣り合いに急で、遠い将来の遅れになると平らになっていくのだ。教科書に出てくる合理的な主体は、このような割引はしない。将来の報酬に一定の率を当てはめる主体なら、比較の期間がいつ始まろうと、選好の構造は変わらないはずである。人はしばしば現在を未来とは別の範疇のものとして扱い、それが系統的な選好の逆転を生む。即時の選択肢が近ければ近いほど、効果は極端になる。今すぐの報酬か来週のもっと大きな報酬かと問えば、多くの人が今すぐの報酬を取る。両方の選択肢を時間的に先へずらし、1か月後か5週間後かにすると、その多くが選択を切り替える。見返りは同じだ。変わったのは現在からの距離だけである。
通説となっている進化的説明は、リスクを経由する。現実の欠乏と不確かな生存の環境では、未来を大きく割り引くことは理にかなった賭けだった。捕食、病気、暴力、飢饉の発生率が高い環境で1年後に生きている確率は、今日よりも大幅に低かった。大きいが不確かな将来の報酬より、確実なカロリーの報酬を今得るほうを好むのは、期待値の推論として筋が通っていた。そしてリスクそのものが不確かな場合、その推論はまさに、急に下がってから平らになる同じ曲線を導く。この説明に従えば、生きて回収できるかもわからない将来の利得のために現在の資源を一貫して犠牲にする脳は、より少ない子孫しか残さなかったことになる。
本稿を読むほとんどの人にとって、その環境はもう存在しない。そしてミスマッチは二つの規模で現れている。個人の規模では、退職後に向けた貯蓄や食事から、体力づくり、予防医療、教育に至るまで、長期的な結果が短期的な選好と大きく食い違う現代生活の重要な領域のほぼすべてが、現在バイアスと真っ向からぶつかる。退職口座に積み立てる意欲を保てない25歳は、複利について推論を誤っているわけではない。将来の報酬を現在のコストに比べて抽象的に小さく感じさせるメカニズムは、それに報いなくなった世界の中で、作られたとおりに働いているのである。リチャード・セイラーとシュロモ・ベナルチの「Save More Tomorrow」プログラムは、このバイアスを情報で克服しようとするのではなく、それを前提に設計すると何が起こるかを示した。従業員は将来の昇給分の一部を退職年金プランに回すことを前もって約束し、参加者の貯蓄率は40か月で3.5%から13.6%へと上昇した。自動加入も同じ仕組みで働く。米国のある大企業では、自動加入によって新入社員の加入率が約48パーセントポイント上昇した。金融教育プログラムも行動を改善するが、その幅はより小さい。有益な行動を初期設定にすれば、それを実行する手間が現在から取り除かれる。複利について教えることは、人が推論によって現在バイアスを乗り越えられると想定しており、役には立つが、確実性は劣る。
文明の規模では、民主主義の有権者は、将来の害や利益を個人とほぼ同じように割り引いているように見える。無知、腐敗した政治家、誤情報もそれぞれ一役買っているが、有権者もまた、人間らしい時間選好をもつ人間で構成されている。インフラ、気候変動の緩和、パンデミックへの備え、抗生物質耐性、年金制度の支払い能力は、いずれも数十年かけて実を結ぶ利益のために、現実の現在のコストを受け入れることを求める。それはまさに、現在バイアスが最も苦手とする取引である。現在のコストは鮮明で差し迫っており、損失として感じられる。将来の利益は抽象的で遠く、小さく感じられる。
これを性格の弱さという意味での政治的意志の欠如と呼んでしまえば、メカニズムを見落とすことになる。よりよいリーダーシップやより明快なコミュニケーションだけでは解決できない。祖先から受け継いだメカニズムが、そもそも対処するよう進化してこなかった問題に適用されているのである。このように読むなら、集団的な政治的意思決定は、数十年にわたる統治に必要な水準よりもはるかに大きく未来を割り引いている。公共の情報キャンペーンだけでその溝が埋まる見込みは薄い。キャンペーンは情報によって選好の構造を変えようとするが、選好の構造は、キャンペーンが想定するよりもはるかに情報に反応しないからだ。ヒトという種の認知構造は、数十年にわたる脅威の管理にはあまり向いていない。そうした脅威を管理するための制度は、その限界が存在しないふりをするのではなく、限界を前提に設計されなければならない。次に決まって出てくる問い、つまり個人がどうすれば自分を直せるかという問いは、自己啓発書で棚をいくつも埋めてきた。より役に立つのは、人々の周りの何を変えるべきかという問いである。
環境を再設計する
ここまで述べてきたミスマッチが構造的なもの、つまり進化したメカニズムが、そもそも想定されていなかった環境で作動しているのであれば、個人の行動変容は主たる手段として的外れである。それにも使い道はあるが、規模を広げるのは難しく、進化したメカニズムを意志の力だけで押さえ込むよう人に求めることになる――その意志を打ち負かすよう設計された環境を相手にするには、頼りにならない道具だ。集団全体の変化は、環境の再設計から生まれる。
この考え方には、すでに実証例がある。セイラーとサンスティーンのナッジの取り組みは、初期設定の環境を変えることで、教育や説得ではなかなか及ばないかたちで行動を変えられることを示した。政府による大規模な試験では、ほとんどのナッジの効果は初期の学術研究が約束したよりも小さいとされるが、デフォルトはいまも最も信頼できる手段の一つである。年金制度への自動加入は、退職後の安心をそれまで以上に望むよう人々に教えるわけではない。最も抵抗の少ない道がよりよい結果へ通じるよう、環境を設計し直すのである。臓器提供のオプトアウト方式は、人々の価値観には手を触れず、初期設定だけを変える。ほとんどの人はどちらのチェック欄にも結局印をつけないので、本人が口では何を望むと言おうと、実質的な同意、すなわち提供の意思があるとみなされる人の割合は、オプトアウトの国ではきわめて高く、オプトインの国では頑として低いままである。それが実際の提供件数をどれだけ押し上げるかは病院や家族やインフラにかかっているが、同意については、デフォルトが仕事の大半を引き受けている。
まだ存在しないのは、問題の規模に見合う政策上の野心である。アテンション・エコノミーのビジネスモデルは、ネガティビティ・バイアス、地位監視システム、変動報酬への反応を、産業規模で利用している。無限スクロール、変動報酬型の通知タイミング、脅威や怒りを誘うコンテンツのアルゴリズムによる増幅、社会的比較の指標の仕組みといった、この利用を実際に担うエンゲージメント最大化型の設計パターンを規制することは、言論ではなく設計を規制することであり、有鉛ガソリンの禁止と同じ種類の介入にあたる。進化した防御をもたない生物学的システムを損なう物質を、環境から取り除くのである。鉛が禁止された根拠は三つあった。害が構造的で、曝露が非自発的で、メカニズムが解明されていたことである。個人がただ鉛を避ければよかったと主張する者はいなかった。アテンション・エコノミーがこれらの条件を満たすのは一部にとどまる。エンゲージメントのメカニズムは解明されているが、それがどれほどの害をもたらすかはユーザーによって大きく異なる。そして、いまやこれらのプラットフォームの上に築かれた社会的・職業的インフラを考えれば、世界人口のかなりの部分にとって曝露は事実上非自発的であり、その一方で業界はこのメカニズムを使い続けている。
タバコ業界は、規制の枠組みが追いつくずっと前から、ニコチンに依存性があることを知っていた。1963年、ブラウン・アンド・ウィリアムソン社の法務顧問は、自社が「依存性のある薬物であるニコチンを売る商売をしている」と書き、米国公衆衛生局長官がニコチンの依存性を正式に宣言したのは1988年のことだった。害についての科学的合意と実効的な規制対応とのあいだの隔たりは数十年単位で測られ、そのあいだ業界は製品を依存効果のために最適化し続ける一方、科学的記録を曇らせることを狙った研究に資金を出していた。アテンション・エコノミーは、1960年代半ばごろのタバコとおおむね同じ地点にいる。エンゲージメントのメカニズムは研究文献に記録され、それを使う企業の内部でも理解されているが、害の大きさについてはいまだ議論が続き、規制当局はようやく動き始めたところだ。EUのデジタルサービス法は2023年以降、最大手のプラットフォームに対し、利用者の精神的な健康へのリスクを評価し軽減するよう義務づけている。2025年7月、欧州委員会は、未成年者についてはストリーク、自動再生、プッシュ通知を初期設定でオフにするようプラットフォームに勧告し、2026年2月には、TikTokの無限スクロール、自動再生、プッシュ通知、パーソナライズされたレコメンドシステムが同法に違反しているとの暫定的な判断を示した。オーストラリアは2025年12月、16歳未満が主要なソーシャルメディア・プラットフォームのアカウントを持つことを禁じた。未成年者向けのアルゴリズム・フィードを制限するニューヨーク州の規則は2027年1月に施行され、2026年3月にはロサンゼルスの陪審が、若いユーザーを依存させる機能を設計したとしてMetaとYouTubeの責任を認めた。これは最初の試金石となる裁判で、両社とも評決に異議を唱えている。それでも、有鉛ガソリンに相当する瞬間にはまだ至っていない。エンゲージメント最大化型のビジネスモデルそのものは、ほぼどこでも合法のままである。今回の遅れがどれほど続くかはわからない。前回の遅れは数十年に及んだ。
企業は科学を待ってはいなかった。流出したMeta自身の研究は、同社がそのトレードオフを測定し、それでもその設計を世に出していたことを示している。ボディイメージに悩みを抱える10代の少女のおよそ3人に1人が、Instagramの研究者に対し、このアプリのせいで気分が悪化したと答えている。
より厄介な問題は、わかっていることに基づいて行動しなければならない制度で働いているのが、同じ認知構造を動かしている人間だということだ。彼らは同じ短期的な選挙上・金融上のインセンティブに直面し、同じ情報環境の中で働き、守るべき人々と同じように、未来を割り引き、順位を気にし、脅威に反応しやすい。政策立案者は、有権者や市場でミスマッチが展開されるのを、その上に立って澄んだ目で見渡しているわけではない。
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参考図書
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Ulfur Atli. “アテンション・エコノミー――なぜあなたの脳は、いま暮らしている世界に合わせて作られていないのか.” Eikleaf, 2026年4月27日, 更新 2026年10月25日. https://www.eikleaf.com/ja/attention-economy-why-your-brain-was-not-built-for-the-world-you-live-in/
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メディア
主な出典と参考文献
Evolution and mismatch
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