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要点
湾岸諸国の原油輸出は戦前の水準に戻ったが、精製燃料の輸出はなお半分ほどにとどまっている。そのため欧州では、原油が1バレル110ドルをわずかに下回るなか、軽油は200ドル近くで取引された。軽油は製油所で作られ、それから船で運ばれる。湾岸とウクライナの戦争は、その両方を傷つけた。ドローンはサウジアラビアからロシアまで製油所を襲い、運賃の高騰は米国から欧州への航路を閉ざした。原油を増やしても、それは解決しない。新たな合意のもとで米国向けに積み込まれた最初のロシア産軽油は、米国の輸出のおよそ5時間分にすぎない。
目次
2026年3月2日(月)、迎撃された2機のドローンの破片が、サウジアラビア最大の製油所ラスタヌラで「限定的な」火災を引き起こした。アラムコは被害を調べるあいだ、予防措置として日量55万バレルのこの製油所を停止した。ラスタヌラは欧州の買い手にとって軽油の主要な供給元であり、量はそれより少ないもののガソリンも生産している。
その日、イランは湾岸各地のエネルギー施設を攻撃しており、石油価格は跳ね上がった。ロンドンの原油は約9%上昇し、1バレル79ドル近くに達した。軽油と暖房油の取引価格であるICE取引所のガスオイル先物は20%を超えて上昇し、1日の上げ幅としては2022年3月以来の大きさとなった。製油所一つでは、この差は説明がつかない。軽油がはるかに急激に値上がりしたことは、トレーダーたちが原油よりも燃料の供給のほうに深刻な混乱が及ぶと恐れていたことをうかがわせた。
それから8か月近くたっても、品薄なのは依然として軽油のほうだった。10月22日までに湾岸の原油輸出は戦前の水準に戻ったが、精製燃料の輸出はなお以前の半分ほどにとどまっていた。10月21日、12月渡しのブレント原油は1バレル110ドルをわずかに下回る水準で取引され、欧州の11月渡しガスオイル先物は200ドル近くで取引された。海上の貨物を追跡する企業ケプラーは「軽油が石油コンプレックスを下支えし、バレルの残りの部分がそれを押し下げている」と書いた。10月半ば、先進国のエネルギー監視機関である国際エネルギー機関(IEA)は、軽油の指標価格を「原油価格のほぼ2倍」とした。
この格差は取引画面のはるか外にまで及ぶ。米国では、人々が買う商品の大半をディーゼルエンジンのトラックと列車が運び、農業機械、建設機械、軍用機械の大半も軽油で動く。IEAは、記録的な軽油価格がすでに物価を押し上げ、実質所得を削っていたと指摘する。原油輸出が回復しても、損傷した製油所を直すことはできず、その燃料を運ぶタンカーを用意することもできなかった。軽油は製油所でつくられ、それから船で運ばれる。2026年、湾岸とウクライナの戦争は、その製造と輸送の両方に打撃を与えた。
軽油はどこから来ていたのか
2026年2月、この取引を支配していたのは二つの地域だった。湾岸諸国とロシアを合わせると、世界の海上軽油・ガスオイル取引の45%近くを占めていた。ここでの数字は純輸出、つまり各地域が送り出した量から受け入れた量を差し引いたものである。ガスオイルとは、軽油や暖房油を含む、中程度の重さの燃料の総称である。
9月の速報値では、中東とロシアの純輸出は合わせて日量82万バレルで、前年より日量130万バレル少なく、60%を超える減少だった。ほかの輸出国が埋めたのは、その一部にすぎない。米国と中国の輸出は前年より日量61万バレル増えたが、9月の世界の軽油輸出はなお2025年9月を日量70万バレル下回っていた。
湾岸の製油所は直接攻撃を受けた。ゴールドマン・サックスは10月初め、中東の精製能力のうち日量およそ200万バレルがなお停止していると推計した。イエメンのフーシ派が攻撃してきた紅海沿岸のサウジアラビアのジザン製油所は、12月末までは再稼働しない見込みである。稼働していた製油所も、燃料を外に出すのに苦労した。10月半ばにホルムズ海峡での攻撃が激しさを増し、10月19日までの1週間には、ガスオイルも軽油も湾岸からまったく出なかった。
ロシアの製油所はウクライナに攻撃された。IEAの推計では、2026年の最初の8か月間、ドローンがロシアの製油所への攻撃に成功した頻度は平均して3日に1回だった。ロイターの計算によれば、9月半ばまでに、ロシアで軽油生産の多い上位6製油所のうち3か所が停止しているか、能力の約4分の1で稼働しているかのどちらかだった。この6か所で国内の軽油のおよそ半分をつくっている。10月20日までに、ケプラーはロシアの精製能力の40%近くが遊休状態にあると判断した。モスクワは手元にある軽油を国内にとどめた。7月8日から軽油の輸出を禁止し、9月30日には生産者に対する禁止を10月31日まで延長した。理由として挙げたのは、自動車燃料の需要が増える収穫期に国内市場を安定させる必要だった。
冬用軽油とケロシンの綱引き
ジェット燃料と軽油は、原油のうち互いに重なり合う留分から切り出される。ケロシン系ジェット燃料は300℃までに沸騰し終えなければならず、ガスオイルの沸点は180℃から380℃なので、同じ分子の一部はどちらにも回すことができる。精製業者はケロシンの留分を、その下にある軽いナフサの範囲にも、その上のガスオイルの範囲にも広げられる。2026年夏、ジェット燃料が逼迫するなかで精製業者はケロシンの生産を最大化し、IEAはそれによってガスオイルの得率が下がったことを確認した。ロシアは毎年秋、同じトレードオフに反対側から向き合う。初秋になると、ロシアの燃料市場は夏用軽油から冬用軽油へと移る。冬用は凍結に強い等級で、通常は10月から11月までに主流となる。暖かい季節に冬用軽油をつくる製油所は少なく、ロシアの製油所が生産するのは国内で使われる冬用軽油の約80〜90%にすぎない。残りは夏用軽油と航空用ケロシンを混ぜてつくられる。ロシアはジェット燃料の輸出禁止を11月30日まで維持した。ロシアの秋には、国外に出たケロシンは冬用軽油にはならない。
10月、禁止は緩み始めた。モスクワがウラジーミル・プーチンとドナルド・トランプの合意によるものだと説明した措置で、ロシアは10月10日から、50万トンの軽油を「現段階で」世界市場に出すことを認めた。生産者に対する禁止は、形式上は10月31日まで有効のままだった。10月に積み込み予定のロシア産軽油は日量17万3000バレルと6月以来の高水準に達し、タンカーは再びトルコやブラジルへの航海を示し始めていた。これは積み込みと行き先の話であり、引き渡しが済んだわけではない。いずれにせよ、ロシアの輸出余力は薄かった。ケプラーはロシアの軽油生産を日量約140万バレル、国内需要を約120万バレルとしていた。IEAは、輸出禁止を緩めても世界の需給はそれほど変わらないだろうと判断した。ロシアの輸出を抑えていたのは、稼働できる製油所の不足だったからである。
製油所に変えられること、変えられないこと
高度な設備をもつ製油所は三つのことをする。原油を分離し、その一部を転換し、出てきたものを処理する。より簡素な製油所は、転換をほとんど、あるいはまったく行わない。分離とは蒸留のことである。原油を加熱し、留分と呼ばれる成分を沸点ごとに取り出す。ガソリンは軽い側から得られ、沸点は35℃から215℃である。ガスオイルは中間留分で、沸点は180℃から380℃と、軽質燃料と重い残渣油のあいだにある。米国では、42ガロンの原油1バレルから、ガソリンが約19〜20ガロン、留出油が11〜13ガロン得られ、留出油の大半は軽油として売られる。こうした得率は、精製業者が需要と利益を追うにつれて月ごとに動く。
1バレルからどれだけの軽油が取れるかは、蒸留塔だけでは決まらない。どのバレルも、その多くは軽油の範囲より高い温度で沸騰する。転換装置は、その重い油の一部を軽い燃料に変える。最も広く使われる方法は分解(クラッキング)で、熱、圧力、触媒、ときには水素を使って、重い分子を軽い分子に切断する。水素化分解装置(ハイドロクラッカー)は水素を加えるタイプの分解装置で、主な生成物には中間留分の成分が含まれる。したがって製油所の軽油は、一部は蒸留塔からそのまま得られ、一部は、運び込まれた時点では軽油になるには重すぎた油からつくられる。

水素化分解装置は重い油からどうやって軽油をつくるのか
典型的な水素化分解装置には減圧軽油が投入される。沸点が350℃から550℃の留分で、その大半は軽油として売るには重すぎる。処理は、背が高く壁の厚い、ロケットのような形の反応器のなかで行われる。内部では高圧下で水素と触媒が長く重い分子を短い分子に分割し、それがナフサと中間留分の範囲に収まる。多くの製油所は接触分解装置も運転している。熱と触媒で重い分子を分解する装置で、水素は加えない。両方の装置をもつ製油所には、いわばダイヤルがある。市場が軽油に傾くと、運転員は水素化分解装置の苛酷度(シビアリティ)、つまり反応の強さを上げ、原料のより多くを低硫黄軽油に変える。ガソリン需要がピークを迎えると、水素化分解装置の運転を絞り、より多くの重い油を接触分解装置に送ってガソリンを増産する。同じ重い油が、製油所がダイヤルをどちらに回したかによって、どちらの燃料にもなりうる。
2026年、精製業者はこのダイヤルを大きく回した。重い原料を接触分解装置から水素化分解装置に振り向け、水素化分解装置を留出油を最大化するモードで運転し、接触分解装置はガソリンを犠牲にしてでもライトサイクルオイル(分解軽油)と呼ばれる留分を多くつくるように設定して、それを軽油に改質した。ケプラーの推計では、こうした調整をすべて合わせると、中間留分、つまりジェット燃料と軽油を合わせた得率を、製油所の構成と処理する原油によって、バレル全体の約7〜10パーセントポイント引き上げられる。この押し上げには大量の水素が要り、装置の規模という天井もある。ロシアは別の角度からその限界を示している。ロシアの製油所は数年かけて軽油得率を33%から37%に上げたが、はるかに小さくなった処理量のなかで割合が大きくなっても、得られる軽油はやはり減る。
出発点を決めるのは原油である。原油は銘柄ごとに、軽質、中間、重質の留分への分かれ方が異なるからだ。ケプラーは湾岸の輸出原油を「本来的に中間留分が豊富」だと表現する。IEAの分析では、2026年には供給の混乱によって、精製業者は自社の設備に合わない原油銘柄の処理を強いられた。
仕上げは処理である。硫黄などの不純物を取り除き、燃料が規格を満たすようにする。ディーゼルエンジンには点火プラグがなく、圧縮によって燃料に着火する。止まった製油所の代わりを務めるには、別の誰かが、余剰の蒸留能力、余剰の転換装置、水素、適した原油、処理能力を、すべて同時に備えていなければならない。
縮んだ土台のうえでの全力運転
有力な候補は、すでに限界近くで稼働していた。米国の製油所は5月から9月まで平均で能力の95%を超える稼働率で動き、これらの月としては1998年以来の高水準となった。米エネルギー情報局(EIA)は、世界的な留出油の供給逼迫がその主な要因だとしている。それでも総生産量は2019年以来の最高にとどまった。米国の精製能力がそれ以降4%縮小しているからだ。2025年の2件の閉鎖、すなわちヒューストンのライオンデルバセルの製油所とロサンゼルスのフィリップス66の製油所の閉鎖で日量約40万バレルが失われ、カリフォルニア州にあるバレロのベニシア製油所もその後精製を停止した。米国の外でも、傾向は同じ方向を向いている。ゴールドマン・サックスは、中国以外の精製能力が2026年に日量およそ30万バレル縮小すると予想している。
軽油のために製油所をより激しく動かすことには副作用がある。精製業者が装置の許すかぎり得率を動かしてしまえば、石油からさらに軽油をつくるには、より多くの原油を処理するしかない。そのため軽油の極端な逼迫は原油の需要を増やし、原油価格を押し上げる。
米国は実際に輸出を増やした。米国は世界最大の軽油輸出国で、10月には日量約140万バレルを出荷した。過去1年、米メキシコ湾岸は北西欧州の軽油輸入のほぼ半分を供給し、そのシェアは1年前よりはるかに大きかった。欧州は、遠く離れた一つの供給元に、ほかのどこよりも頼るようになっていた。
新たな能力はあるが、空いた穴に比べれば小さい。ナイジェリアの石油製品の海上輸出は、2023年の平均日量4万6000バレルから2026年第2四半期には35万バレルに増えた。それを支えたのはダンゴテ製油所で、いまでは日量70万バレルの原油を処理できる。
1バレル200ドル近く、利益の出る航路はわずか
存在する軽油でさえ、最も必要とする買い手に届くとはかぎらなかった。燃料は、トレーダーがアービトラージと呼ぶものを通じて地域間を動く。運賃を含めて届けた時点での貨物のコストと、仕向け地の買い手が払う価格との差である。アービトラージがプラスなら、トレーダーはヒューストンで軽油を買い、ロッテルダムに運んで利益を出して売ることができる。マイナスに転じれば、その取引は割に合わなくなる。ただし、自社でつくった軽油を輸出する精製業者にとっては、なお出荷する価値がある場合もある。
10月、運賃がそれを閉ざした。ケプラーの分析は率直である。米国から欧州への航路を閉ざしたのは、軽油の相対価格ではなく運賃だった。米メキシコ湾岸発の直近積み貨物の運賃は、タンカー業界の運賃指数であるワールドスケールで約250から400超へと上昇した。10月16日(金)までの1週間だけで、ミディアムレンジ級の石油製品タンカーの運賃は30%近く上昇し、米メキシコ湾岸から北西欧州と地中海への航路を閉ざした。11月にロッテルダムに到着する貨物では、ケプラーの一覧に載るすべての積み出し地が損失を示した。ガスオイルは1バレル200ドル近くだったが、米メキシコ湾岸で軽油を買ってその価格でロッテルダムで売るトレーダーは、それでも損をしていたはずである。

同じ運賃が、反対側から精製業者を締めつけた。精製利益の一般的な指標はクラック、つまり精製品の価格と原油価格の差である。IEAの分析では、欧州の精製業者にとっての軽油のクラックは、1バレル約100ドルから10月初めには60ドル近くまで下がった。軽油が潤沢になったわけではない。運賃の高騰で、原油の到着コストが上がったのである。エネルギー経済学者のフィリップ・バーレガーは、北西欧州の精製マージンを9月初めに1バレル54ドル、10月5日には最低でマイナス11ドルとみている。IEAの説明では、記録的な運賃と原油コストが欧州とアジアの精製マージンを押しつぶした一方で、割安な原油を入手できる米国の精製業者は最高益を更新した。
10月20日までに、最も単純な製油所、つまりシンガポールのトッピング型製油所や北西欧州のハイドロスキミング型製油所では、マージンがマイナスに転じていた。いずれも転換をほとんど、あるいはまったく行わない製油所である。ケプラーは、軽油価格がさらに下がれば精製業者が処理量を減らすかもしれず、そうなれば軽油だけでなくガソリンとジェット燃料の供給も逼迫すると警告した。言い換えれば、軽油価格が下がると、つくられる軽油が減ることもありうる。10月下旬、まだ利益の出ている精製業者は稼働を続けた。ケプラーの言葉を借りれば、「精製業者はクラックを稼げるから稼働を続け、軽油はどこかへ行かなければならない」。
給油ポンプと農場で代償を払うのは誰か
人々は実際に軽油の使用を減らしたが、その減り方は供給の落ち込みより小さかった。IEAの推計では、世界の軽油とガスオイルの引き渡し量は、2026年第2四半期に前年同期比で日量110万バレル、第3四半期には75万バレル減った。生産はそれより速く減った。第2四半期に日量150万バレル、第3四半期には推定170万バレルである。軽油とガスオイルは世界の石油需要の30%近くを占める。軽油の使用は経済活動と密接に結びついているため、IEAはその需要が価格に比較的反応しにくいとしている。トラックは配達しなければならず、収穫は取り入れなければならない。
米国の給油所では、戦争前の最後の週である2月23日の週に、軽油は平均1ガロン3.81ドルだった。9月21日には過去最高の6.53ドルに達した。約70%高い計算になる。10月19日にもなお6.28ドルだった。
農家は収穫のさなかにその重みを感じた。10月5日、ネブラスカ州グランドアイランドでの集会で、トランプは、公道以外で使われる非課税燃料である赤く着色された軽油を一時的に幹線道路でも使えるようにし、連邦物品税の納付を繰り延べる命令に署名した。ネブラスカ州のジム・ピレン知事は、高い軽油価格が「畑での作業から、農産物や家畜の輸送まで、彼らのすることすべてに影響している」と述べた。燃料価格を追跡するガスバディのパトリック・デハーンは、こうした命令は道路利用者にとっては節約になっても、すでに赤色の軽油を使っている農家には節約にならないと、それ以前から指摘していた。「問題は税金ではなく、供給だ」と彼は書いた。10月19日、トランプは80億ドルの収穫期燃料救済プログラムを発表した。農務省の農業サービス局を通じて、一時金として支払われる。
米国の在庫は少なく、同時に増えてもいた。10月16日までの週の米国の留出油在庫は1億430万バレルで、5年平均を9%下回っていた。その週に170万バレル増えたうえでの数字である。1982年までさかのぼるEIAの週次データを本誌が数えたところ、その週としてこれより低い水準の年はそれまでなかった。それまでの最低は2022年の1億620万バレルである。この時期としての最低であり、過去最低ではない。東海岸では、9月に在庫が5年の季節平均を32%下回った。ほかの地域では在庫が回復しつつあった。10月第3週までの時点で、アムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)拠点の独立系ガスオイル在庫は平均で9月より6%多く、シンガポールの中間留分在庫は10%多かった。
欧州の問題はコストであって、タンクが空になることではなかった。10月2日、欧州委員会は、EUの軽油供給は「当面は」安定しているが、価格は高止まりしていると述べた。10月21日、ケプラーは、11月と12月に到着する分について欧州は「窮地にあるわけではない」と判断した。ただし欧州は、限られた数の限界的な供給元に依存していた。より貧しい輸入国には、それほどの余裕がなかった。中東からアフリカへの軽油輸出は8月に9年近くぶりの低水準に落ち込み、アジアからの貨物がそれに取って代わった。ケプラーは10月下旬、インドネシアのガスオイルのフォワードカバー(需要に対する在庫日数)を、ホルムズ危機前の22日から下がって約17日としたが、同国政府は国の燃料在庫は義務づけられた最低水準を上回っていると述べ、各地の不足はタンカーの到着遅れのせいだとした。IEAは、最大のガスオイル輸入市場である欧州、アフリカ、中南米で、到着ベースの軽油価格が再び上昇する可能性があると警告している。
抱え込む、放出する、許可する
ケプラーの推計では、世界は需要がピークを迎える冬に向けて、日量約100万バレルの軽油不足を抱えていた。各国政府の対応は三つあった。自国の軽油を抱え込むこと、備蓄した軽油を放出すること、そして政治が閉ざした取引を再開させようとすることである。
ロシアの輸出禁止は最大の抱え込みだったが、唯一のものではなかった。中国の精製業者は国内在庫を守るために10月の燃料輸出を停止した。もっともIEAによれば、北京が10月半ばに輸出許可の発給を再開すると、懸念は和らいだ。10月初め、ワシントンは米国産軽油の輸出禁止をちらつかせ、ドイツとフランスに緊急備蓄の取り崩しを迫った。10月2日、G7首脳は互いのあいだでエネルギー輸出を制限しないという約束を再確認し、生産国に禁輸を避けるよう呼びかけた。
次に放出が続いた。10月15日、IEA加盟国は、3月に開始した協調備蓄放出のうち残る分の放出を前倒しすることで合意した。そこには、できるだけ早く放出される2000万バレル超の軽油が含まれる。ケプラーの推計では、欧州の備蓄放出は、ロシアからの追加の軽油と合わせて、約90日間にわたり不足を一時的に半減させうる。この推計はあくまで目安である。放出が実行されること、そしてロシア産のバレルがほかの買い手から振り向けられるのではなく、世界の供給に上乗せされることを前提としている。
三つ目の道はロシアを経由していた。10月9日、米財務省は一般ライセンス135号を発行し、米国への輸入を含むロシア産軽油の取引を2027年4月7日まで認めた。これはロシア産軽油に対する特定の米国制裁を一時的に免除するもので、欧州と英国の禁輸措置は有効なままである。また、2022年に成立した法律とも折り合いが悪い。この法律は、ロシアが地域の安全保障とウクライナの主権に関する条件を満たしたと大統領が議会に証明した場合に限って、ロシア産石油の輸入禁止を解除できると定めている。10月15日には、超党派の下院議員22人がライセンスの撤回を求めた。ホワイトハウスは、このライセンスが世界の供給を増やし、価格を下げると述べた。ケプラーがバレルに換算すると、トランプが発表した分割供給は、即時に220万バレル超、11月に370万バレル、その後まもなく750万バレルで、合計で少なくとも1340万バレルになり、ロシアの製油所の状況次第でさらに2240万バレルが加わる可能性がある。日量約100万バレルの不足に対して、1340万バレルは約13日分にあたる。米国側についてのケプラーの見方ははっきりしていた。米国は「確かに軽油価格の問題を抱えている」が、「供給の問題は抱えていない」。
最も厳しい駆け引きは、製油所そのものをめぐるものだった。10月10日、トランプはウォロディミル・ゼレンスキーに、製油所への攻撃を「とにかくやめたほうがいい」と警告し、翌日にはこう投稿した。「直ちに、ロシアとウクライナの戦争においてエネルギー停戦が発効する。両当事者は合意した」。モスクワからは何の発言もなかった。ゼレンスキーはその後、モスクワが拒んだこの停戦は終わったと宣言し、それから数時間のうちに、10月15日未明、ウクライナはリャザン製油所を攻撃した。10月18日には、その年最大級のドローン攻撃を行い、サンクトペテルブルク石油ターミナルに命中させた。ウクライナは、10月8日に攻撃したロシア最大の製油所オムスクがロシア軍に燃料を供給していたとし、ロシアはウクライナのエネルギー施設と都市への爆撃を一度もやめなかった。ゼレンスキーは燃料価格の責任を否定し、中東の戦争のほうが大きな要因であることは「世界中の誰もが」知っていると述べ、軽油をめぐる取引はモスクワの攻撃を勢いづかせ、さらに多くの民間人の命を奪うことになると警告した。10月22日、大統領決定は米国の精製と燃料物流を国防に不可欠なものと宣言し、エネルギー省は米国の製油所の生産拡大に最大1億5000万ドルを充てる計画を発表した。対象となる事業はまだ選ばれていない。
不足はおのずと解消するのか
警戒は不要だとする最も強い論拠は、これが戦時の不足であり、すでに和らぎつつあるという点にある。10月のロシアの積み込みは6月以来の高水準で、モスクワは年末までに輸出が通常の月300万〜350万トンに戻りうるとしている。ARA拠点とシンガポールの在庫は、10月には9月より多かった。ダンゴテは供給を増やしている。ケプラーは2026年の世界の軽油・ガスオイル需要が日量50万バレル減ると予測し、IEAはガスオイル市場が2027年第1四半期に供給過剰に戻るとみている。さらに先を見れば、トラックも変わりつつある。2025年に中国で販売されたトラックの4台に1台は電気トラックだった。
それでも、こうした予測どおりに進む前に、まず不足の時期を切り抜けなければならない。IEAは、2026年最後の四半期にガスオイルの供給が需要を下回るとみている。2027年初めの供給過剰は2026年中に積み上がった不足を埋め合わせるものではなく、失われた在庫の積み増しは2027年後半より前には実現しそうにないという。回復は中東からの製品供給が戻るかどうかにかかっている。それが戻らなければ、とIEAは警告する。「さらなる需要削減と、それに伴う重い経済的コストが必要になるかもしれない」。IEAは石油市場全体の不足が年末まで続くとみている。ゴールドマン・サックスは、軽油とジェット燃料のクラックが2027年に平均1バレル40ドルを超え、通常の約20ドルの2倍以上になると予測している。
10月22日、マルタ船籍のタンカー「アギオイ・ファネンデス」が、ロシアのバルト海の港プリモルスクで超低硫黄軽油4万トンを積み込んだ。プーチン・トランプ合意に基づいて米国向けに積み込まれた初のロシア産軽油で、タンカーは当初、行き先をニューヨークと表示し、到着予定は11月7日だった。11月3日の米中間選挙の4日後である。トランプはこの合意を、選挙前に軽油価格を引き下げる取り組みの一環として発表していた。10月23日までに、タンカーの行き先表示は「for orders(指示待ち)」に変わり、船主は荷揚げ港はまだ確定していないと述べた。積み荷は約30万バレルである。米国が10月に輸出した軽油日量140万バレルで割ると、米国の輸出のおよそ5時間分にあたる。
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参考図書
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Ulfur Atli. “原油輸出が回復しても、なぜ軽油は不足したままなのか.” Eikleaf, 2026年10月24日, 更新 2026年10月25日. https://www.eikleaf.com/ja/why-diesel-remains-scarce-as-crude-exports-recover/
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メディア
モスクワ製油所の夜の空撮 – Wikimedia Commons (写真:Artem Svetlov, CC BY 2.0)
スロヴナフト製油所の水素化分解装置 – Wikimedia Commons (写真:Mikulova, CC BY-SA 3.0)
ロッテルダム港の石油製品タンカー「エセックス・スター」 – Wikimedia Commons
主な出典と参考文献
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International Energy Agency. “Oil Market Report – September 2026.” 11 September 2026. https://www.iea.org/reports/oil-market-report-september-2026
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