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要点
2026年9月、国連の報告書は、世界は数年のうちに1.5℃を超え、そこへ上から近づかなければならないと述べた。惑星にダイヤルはない。二酸化炭素の正味ゼロは、温暖化をおおむね止める。気温はそこで保たれるが、下がりはしない。除去によって0.1℃冷やすごとに、いまも排出されている分に加えて、約2200億トンの二酸化炭素が必要になる。直接空気回収による除去は、2025年に約1500トンだった。世界が下りてこなければならない高さは、この10年のうちに決まりつつある。
目次
上から
2026年9月2日、国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は記者団に対し、1.5℃目標は「今も目標であることに変わりはない。だが今後は、別の方向から近づく必要がある。上から、である」と語った。彼女が発表した報告書『Limiting Overshoot』は、世界が1.5℃の温暖化を超えること、しかもそれが「今後数年のうちに」起こることを、国連機関として初めて何の留保もなく明言した評価だった。ツバルの気候相マイナ・タリアは、この率直なメッセージが「低い環礁に暮らす人々に強く響いた」と述べた。
「上から」は、サーモスタットなら従える指示である。ダイヤルを下げれば暖房が止まり、部屋は冷える。惑星にダイヤルはない。その気温を決めているのは、すでに大気中に積み上がった二酸化炭素であり、海がすでに吸収した熱であり、今なお排出されているもののすべてである。そのどれも、記者会見で下された決定にすぐには応じない。気温が下がるには大気中の二酸化炭素の蓄積が減らなければならず、熱がすでにもたらしたものの一部は、それよりも長く残る。
まず「オーバーシュート」という言葉を正確に定めておく必要がある。数十年単位で測った長期の平均気温がある水準を上回っているとき、世界はオーバーシュートの状態にある。一年だけ暑くて線を越えても数には入らないし、一か月だけ暑くても同じである。2026年9月は、産業革命前の基準とされる1850〜1900年の平均より1.63℃暖かかった。それは一か月の天候についての事実であり、UNEPの言うオーバーシュートはもっとゆっくりした現象である。
10月21日、UNEPは年次の『排出ギャップ報告書』で、まだ残されている最善のケースを示した。大幅な削減を直ちに始めれば、温暖化は今世紀半ばごろに1.7〜1.8℃でピークを迎える。2100年までにそれを1.5℃に戻すのはさらにその先の一歩であり、見込みはほぼ五分五分にすぎない。しかもそのためには、そうした削減に加えて、二酸化炭素除去の大規模で持続的な拡大が必要になる。9月の報告書のとりまとめを主導した中核チームの一員であるリチャード・ベッツは、世界が「何十年、何十年も」オーバーシュートの状態にとどまると見ている。
暑い一か月と、暖かい十年
2026年8月の世界の平均地上気温は産業革命前を1.65℃上回り、2023年7月と並んで観測史上最も暖かい月となった。9月もそれに迫り、9月としては観測史上2番目の暖かさだった。熱帯太平洋の海面が周期的に暖まるエルニーニョ現象は、すでにはっきりと発生し、勢いを増している。世界気象機関(WMO)は10月8日、この現象が2027年2月まで続くことはほぼ確実で、少なくとも1950年以降で最も強いものの一つになる可能性があると発表し、10月22日には前例のない強さになりうるとした。EUの気候監視サービスであるコペルニクスは、1.5℃を上回る月が2027年まで続くと見込んでいる。エルニーニョは地球に新たな熱を加えるわけではない。海がすでに蓄えていた熱を、温度計の並ぶ表層へ運び上げるのである。
長期の水準はもっと低く、もっとゆっくり動く。2026年1月、コペルニクスは長期の温暖化を約1.4℃とし、その尺度での1.5℃到達はこの10年が終わるころまでに起こりうると述べた。パリ協定が署名された当時の予測より10年以上早い。人為的な温暖化は2025年に1.37℃と推定され、2016〜2025年には10年あたり0.27℃のペースで上昇していた。その水準とその速さなら、2030年ごろに1.5℃に達する。空気がもっときれいなら、この数字はすでに高くなっているはずである。温室効果ガスだけなら、世界は2025年までに1.6℃を超えて温暖化していたはずで、燃焼や産業が同じく放出する微粒子、エアロゾルによる冷却がその一部を覆い隠している。
パリ協定は、気温上昇を「摂氏二度高い水準を十分に下回るもの」に抑え、1.5℃に制限するための努力を続けることを目指しているが、気温をどれだけの期間で平均すべきかは、条文のどこにも書かれていない。IPCCとWMOは、その空白を実務上の取り決めで埋めている。20年平均がある温暖化水準を超えたとき、その水準を越えたとみなすのである。20年あれば、エルニーニョが一度や二度起きてもならされ、根底にある傾向が見えてくる。だからこそ、1.5℃を上回った年が一年あったというだけでは、パリ協定の目標が失われたことにはならない。
終わる前の平均に日付を付ける
20年平均には厄介な性質がある。20年が終わるまで、誰にもその値はわからないのである。気候科学者は、ある温暖化水準に達した時期をその期間の中間、つまり期間が始まってから10年後に置く。世界が1.5℃に「達した」瞬間が確かなものとして定まるのは、振り返ってからのことになる。それでも、一年の暑さが情報をもたらすことはある。モデル計算では、極めて厳しい排出削減がない限り、1.5℃を初めて上回った年は、平均して1.5℃となる最初の20年間のうちに収まり、その確率は平均で約99%に上る。温暖化の傾向が、年ごとの揺らぎに比べて強いためである。短期的に厳しい削減を行う場合、この確率は75%前後に下がり、最も排出の少ないシナリオでは、一年暑かったからといって、いずれ平均で1.5℃に達する可能性が非常に高くなるわけではない。UNEPの9月の報告書は、このうち最初の読み方を採っている。その見方では、暦年として初めて1.5℃を上回った2024年によって、世界は平均気温上昇が1.5℃となる20年間の内側に入った。
ネットゼロは温度計に何をもたらすか
下りの物理は、上りの仕組みから始まる。長期の温暖化は、これまでに排出された二酸化炭素の累計にほぼ直線的に連動する。CO2を1兆トン排出するごとに約0.45℃である。温度計が反応するのは、ある一年に世界が排出した量よりも、その累計の大きさである。年間の排出量を減らせば、累計の増え方は遅くなる。それでも累計は、排出と除去が釣り合って世界全体でCO2の正味ゼロ(ネットゼロ)に達するまで増え続ける。IPCCは、ネットゼロの達成を、人為的な温暖化をどの水準であれ安定させるための条件と位置づけている。
ネットゼロに達したその日、何が起こるのか。最も有力な証拠によれば、CO2による温暖化はおおむね止まる。温暖化全体を横ばいに保つには、メタンなど他の温室効果ガスの大幅な削減も必要になる。それでも気温は横ばいになるだけで、ひとりでに下がりはしない。CO2がネットゼロになれば累計は増えなくなるが、それを減らせるのは、持続的な正味マイナスの排出、つまり排出量を上回るCO2を何十年にもわたって毎年取り除き続けることだけである。理屈の上では、もう一つの道もある。全温室効果ガスで正味ゼロを達成し、それを維持すれば、ピーク後に気温は徐々に下がっていく。ただし他のガスの排出はいくらか残り、それを相殺するには余分なCO2を大気から取り出す必要がある。つまり温室効果ガスのネットゼロは、いずれにせよCO2の正味マイナスを意味するのである。
排出が止まると温暖化も止まる理由
かつてのモデル実験は、何も変わらなくても今後数世紀のうちにさらに0.4〜0.5℃の温暖化が「パイプラインの中に」控えていると示唆していた。だがこれらの計算は、大気中のCO2の量を一定に保っていた。一定に保つには、陸と海が吸収する分を補う排出を続けなければならない。つまりこの実験は、排出ゼロの世界を一度も描いていなかったのである。排出が本当に止まると、二つの効果が互いに逆向きに働く。余分な熱の90%以上を吸収してきた海は、深層が追いつくにつれて表層から熱を引き込む速さが鈍り、それが地表をわずかに暖める。一方、人間が毎年排出するCO2の約半分を取り込んでいる陸と海は、大気からCO2を引き出し続け、こちらは冷やす方向に働く。18のモデルで行われた理想化実験では、炭素の累積排出量が1兆トンに達した時点でCO2排出を突然打ち切った。50年後の気温は0.36℃低いものから0.29℃高いものまでばらつき、平均では0.07℃低かった。最も可能性の高い値はほぼゼロだが、数十年から数千年にわたって温暖化を続けたモデルもあれば、大きく冷えたモデルもあった。
ネットゼロが線を守るとしても、守られるのはその時点で世界がたどり着いている線である。だからこそ、残余カーボンバジェット、つまり温暖化を1.5℃に抑えられる確率が五分五分となる範囲でまだ排出できるCO2の量が、気温が横ばいになる高さを決める数字になる。日付の付いた二つの推計は食い違っている。「世界の気候変動指標」(IGCC)のチームは2026年6月、その量を2026年初めの時点で約1300億トンとした。2025年の排出ペースなら3年余りで使い切る量であり、UNEPの9月の報告書もこの数字を用いている。グローバル・カーボン・プロジェクトは2025年11月、それを1700億トンとし、「現在の排出ペースでは2030年までに使い果たされる」と述べた。どちらも前提の上に成り立っている。メタンなどCO2以外の排出をどこまで削減するかによって、IGCCのバジェットは約2000億トン上下しうる。どちらの推計も、1.5℃を超える日付を示すものではない。過去の排出がこれからどれだけの温暖化を残しているかは不確かで、他のガスが温暖化をどれだけ上乗せし、あるいは差し引くかも不確かである。だからバジェットを使い切ることと1.5℃に達することは、必ずしも同時には起こらない。
横ばいの水準が重要なのは、それがあらゆる下降の出発点になるからである。UNEPの10月の報告書は、遅れの代償を一つの換算で示している。現在の水準のCO2排出が5年続くごとに、ピークの温暖化は約0.1℃上がる。世界がどの高さから下りなければならないかは、この10年のうちに決まりつつある。
下りの算術
交換レートは厳しい。UNEPの9月の報告書は、世界の気温を0.1℃ほど下げるには、累計で約2200億トンの正味マイナスのCO2排出が必要だと見積もっている。正味マイナスのCO2とは、なお排出されているCO2を除去量が上回ることを意味する。つまりこれは、世界自身のCO2排出を相殺したあとで取り除かれるトン数である。正味の除去量が年100億トン、現在のCO2排出量の約4分の1に達したとしても、温暖化が戻るのは10年あたり約0.05℃にとどまるかもしれない。現在の温暖化のペース、10年あたりおよそ0.25℃からすると、10年分の加熱を元に戻すのに約50年かかりうる。しかもそれは、楽観的な除去を前提とした話である。
交換は一対一でもない。CO2を大気から取り除くと、それまでCO2を吸収していた陸と海が、一部を吐き戻して応じる。IPCCは、除去による大気中CO2の減少は、同量の排出による増加より最大10%小さくなりうると判断しており(確信度が中程度)、その差は除去する総量によって変わる。排出と除去を鏡像として扱うのは、バジェットのわずかな超過であればおそらく問題ないが、大量の排出を逆転させなければならない場合には、その扱いが成り立ちにくくなるモデルもある。
だから下降を除去だけに頼ることはできない。UNEPは三つのてこを挙げ、どれも単独では十分でない可能性が高いとしている。第一は、残余CO2、つまり今世紀半ば以降もなお残る排出を減らすことである。第二は、地球を暖めるその他の残余排出、とりわけ現在の温暖化のうち約0.5℃に寄与しているメタンである。2050年以降、残余メタン排出を年6000万〜7000万トン追加で持続的に削減すれば、その後50〜100年で気温を約0.1℃下げられる可能性がある。2200億トンの追加的な正味マイナスCO2と同じ効果である。第三は、CO2の除去を増やすことである。除去が楽観的に拡大したとしても、UNEPは今世紀中に十分の数度を超えて気温が戻る可能性は低いとみており、それすら残余CO2を同時に削減できるかどうかに大きく左右される。数十年のうちに0.2〜0.3℃下げるには、各国政府や企業が今日みずから掲げているネットゼロ目標をはるかに超える、世界的に協調した政策が必要になる。ピークが1.8℃前後を超えると、今世紀中に1.5℃へ戻ることはますます難しくなる。
これらの計算は、気候がどう応答するかについての中央推計に基づいている。だがその応答の分布は、裾が重い。IPCCのシナリオ分類に付けられたオーバーシュートの大きさは中央値であり、ある経路がそれ以上にオーバーシュートすることもありうる。カール=フリードリッヒ・シュロイスナーらのモデル計算では、2100年までに温暖化を1.5℃に戻すのに必要な正味マイナス排出は、結果の中央の半分の範囲で、ゼロからCO2 4000億トンまでばらついた。予想より高い温暖化に備えるには、世界は数千億トン規模の除去能力を予備として確保しておく必要があると彼らは論じ、「オーバーシュート後の気温低下が、今日想定されている時間スケールの中で達成可能だと確信することはできない」と結論づけた。
モデルは、気温が戻るかどうかについてさえ一致していない。排出量で駆動し、2300年まで走らせた二つの地球システムモデルは、正反対のふるまいを見せた。一方では、負のCO2排出にもかかわらず大きな残留温暖化が22世紀まで続き、それは南大洋から放出される熱と結びついていた。もう一方では気温はおおむね下がったが、海面上昇と海洋の酸素の減少は実質的に元に戻らなかった。
何をもって除去された1トンとするか
二酸化炭素除去には三つの役割があり、下降はその最後のものにすぎない。短期的には、正味の排出を減らす。今世紀半ばごろには、なくしきれない残余排出を打ち消す。ネットゼロはそうやって達成される。その後になって初めて、世界を正味マイナスの領域へ押し出せる。最初の二つの役割に使われる1トンは、どれもまだ冷却には回せない1トンである。
炭素除去のほとんどは従来型である。新たに植えられた森林と再生した森林だけで、2014〜2023年に年平均約22億トンのCO2を吸収した。それ以外は新しい手法としてまとめられる。これには、植物から作った炭を土壌にすき込むバイオ炭、植物にCO2を吸収させてから燃やして発電し、煙突から出たCO2を地中に埋めるCO2回収・貯留付きバイオエネルギー(BECCS)、砕いた岩石をまいてCO2と反応させる風化促進、そして大気中から直接CO2を引き出して地下に貯留する装置である直接空気回収(DAC)が含まれる。
新しい除去手法の規模は小さく、勘定には注意が要る。新しい手法による活動は2025年に推定204万トンのCO2に達した。従来型の合計の約1000分の1であり、2020〜2025年には年平均36%で伸びた。そのうちバイオ炭が146万トンを占めたが、CO2換算で97万トンに相当する炭素は木材に由来していた。樹木がすでに大気から取り込んでいた炭素を、より長持ちする貯蔵先へ移したものである。これらの数字をまとめる研究者たちは、こうした例を貯蔵先から貯蔵先への炭素の移動として数え、その年に大気から除去されたCO2とは区別している。新しい除去手法のほぼすべてはバイオ炭とBECCSが占める。直接空気回収による除去は2025年に約1500トンだった。入手できる登録データに基づく数字であり、除去量がまだ検証されていないプロジェクトは含まれていない。
最大のDACプラントを見れば、規模拡大の難しさがわかる。クライムワークスによれば、アイスランドにある同社のマンモス・プラントは2026年上半期に675トンの正味除去を達成した。前年同期は119トンだった。同社の定義でいう正味とは、保守、天候、稼働率、そしてプラントの建設と運転に伴う排出を差し引いたうえで、地下に恒久的に貯留されたCO2を指す。プラントの公称能力は年間最大3万6000トンである。クライムワークスは、改良した2基のコレクター・コンテナが現在、設計出力の約40〜50%を実際の正味除去に変えているとし、2026年末までに一つのプラントモジュールにある12基のコンテナすべてを改良する計画だという。共同最高経営責任者のヤン・ヴルツバッハーは、マンモスを建設するにあたり、同社と投資家はほとんどコストを度外視してでも、現場での量を早く求めていたと語り、「本当に量の勝負だった」と述べている。
価格と潜在量も、さらなる制約になる。森林による除去の推定コストはCO2 1トンあたり5〜53ドルで、直接空気回収は最も高価な手法の一つである。全手法の想定コストは1トンあたり10ドル未満から1000ドル超まで幅があり、ほとんどの手法で上限の推定は200ドルを超える。潜在量のより信頼できる下限推計は、ほとんどの手法で年約10億トンである。こうした潜在量を単純に足し合わせることはできない。手法どうしが同じ資源を奪い合うからである。BECCS、バイオ炭、バイオマス埋設は、いずれも同じ植物資源の供給に頼っている。
そして、地球自身の除去システムがある。気候変動は、CO2を吸収する陸と海の吸収源を弱めてきた。その弱まりが、1960年以降の大気中CO2の増加のうち8%を占めている。気候変動と森林破壊が相まって、東南アジアの熱帯林と南米の広い範囲は、吸収源から排出源へと変わった。陸の吸収源は一方的に衰えているわけではない。2023〜24年のエルニーニョが終わったあとの2025年には、エルニーニョ以前の水準まで回復した。温暖化はまた、自然を活用した一部の手法が吸収するCO2の量と、それを保持できる期間を減らす。UNEPの計算では、化石燃料由来のCO2排出がゼロになり、森林破壊が止まったとしても、現在の規模の植林と森林管理を1世紀続けて下がる世界の気温は0.1℃である。
下りの道に必要なもの
下降はまず、なおどれだけ排出されているかにかかっている。UNEPのオーバーシュートが最も小さい経路では、温室効果ガスの排出を2025年比で2030年までに18%、2035年までに45%、2040年までに69%減らし、2050年ごろに世界全体でCO2のネットゼロを達成する必要がある。各国がパリ協定のもとで提出した国別の気候計画を完全に実施しても、2030年までの削減は5〜8%にとどまる。2025年の世界の排出量はCO2換算で584億トンと推定され、2024年をごくわずかに下回ったが、排出がピークに達したかどうかを判断するにはまだ早いとUNEPは言う。現行の政策のままなら、UNEPは今世紀の温暖化が2.8℃未満にとどまる確率を66%としている。すべての国別計画を実施すればその線は2.6℃まで下がり、あらゆるネットゼロ誓約を加えれば2.1℃になる。誓約に基づく予測がUNEPの2025年の報告書より悪化したのは、過去の排出量の推計が改められたことと、世界第2位の排出国である米国がパリ協定から離脱したことによる。
第二の要件は、恒久的な除去と、それを収める場所である。オーバーシュートが最も小さい経路では、今世紀中に約3200億トンのCO2を除去して恒久的に貯留する必要がある。2024年のCO2排出量のおよそ8年分にあたる。年単位で見ると、最も野心的な1.5℃シナリオの中央値は2050年までに年88億トンの除去を必要とするが、各国の最も野心的な長期誓約を合計しても36億トンにしかならない。大幅な削減を先送りするシナリオでは、早く動くシナリオより2100年までに1500億トン以上多く除去しなければならない。この規模の除去は、技術的にも社会的・経済的にも不確かだと、UNEP自身が警告している。
第三の要件は、費用を払う者である。新しい除去手法の市場は、ごく少数の買い手に依存している。その一つであるマイクロソフトが購入の大半を占め、2025年には自主的炭素市場で約4000万トン分の除去契約が結ばれた。各国政府もルール作りに乗り出している。2025年、ノルウェーとスイスは、各国が排出削減量を取引できるパリ協定第6条2項のもとで、恒久的な除去の初めての移転を行った。またスイスは2025年から、回収して恒久的に貯留したCO2を、自国の排出量取引制度における義務履行に算入することを認めている。
冷えた惑星が取り戻すもの
下降の費用がまかなえたとしよう。温度計は気候のなかで最も速く反応する部分であり、人の一生のうちにそれに追随するものもある。北極の海氷は、温暖化が逆転すれば、世界の気温から数年〜数十年遅れて戻ると予想されている。
海面はもっと遅い時計で動いている。いま何が起ころうと、海は数百年から数千年にわたって上昇し続けることが避けられず、気温が下がっていても、その上昇は何世紀にもわたって元に戻らない。それでも冷却には意味がある。上昇を遅らせ、長期的に避けられない上昇幅を小さくするからである。長期的に気温を下げることは、より高い水準で落ち着かせる場合と比べて、2300年の海面上昇を半メートル近く減らすことにつながるかもしれない。高さだけでなく、線を上回っていた時間も効いてくる。ある一連のモデル経路では、1.5℃を上回る期間が1世紀続くごとに、2300年までに避けられなくなる海面上昇が中央推計で約40センチ増えた。オーバーシュートがまったくない場合のおよそ80センチに上乗せされる量であり、この比率はそれらの経路に当てはまるもので、一般法則ではない。
損害の中には、政策にとって意味のあるどんな時間スケールでも戻らないものがある。永久凍土が融けると、放出された炭素は放出されたままになる。気温が下がって凍土がある程度回復しても、その土壌炭素を再び蓄え、凍らせ直すには数千年かかるからである。中程度の複雑さを持つある地球システムモデルは、一時的なオーバーシュートが何を残すかを数字で示している。このモデルは42組のシナリオで計算された。各組の一方はオーバーシュートし、ピークは約1.5℃から2℃の間となり、もう一方はオーバーシュートせずに今世紀末の累積排出量を同じにする。オーバーシュートした計算が相手と同じ気温まで冷えた年の時点で、オーバーシュートによる追加的な影響からの回復の中央値は、永久凍土の炭素と、熱を北へ運ぶ海流系である大西洋子午面循環の強さについてはほぼ0%だった。海洋の水温、海洋の酸素、そして海水の膨張による海面上昇については、わずか20〜25%にとどまった。残った損害は、著者らが「度・年」と呼ぶもの、つまりオーバーシュート期間中の各年について相手のシナリオを上回った気温を足し合わせた量に連動し、ピークの高さそのものにはあまり左右されなかった。これは一つのモデルにすぎず、回復の測定期間は数十年で、これらのシステムの多くが落ち着くのに要する時間より短い。
暖水性のサンゴ礁について、UNEPの報告書は温暖化の閾値を1.2℃(幅0.7〜1.5℃)としており、約1.4℃の温暖化ですでに熱的な転換点を越えつつあると述べている。転換点とは、それを越えるとシステムが再編成される閾値であり、その変化はしばしば急激で不可逆である。報告書は、温暖化が2℃で安定する場合も、オーバーシュートして1.5℃に戻る場合も、サンゴが今世紀を生き延びる見込みはほとんどないとみている。2026年10月22日、国際自然保護連合(IUCN)は、浅海のサンゴ礁生態系について初の世界的なレッドリスト評価を発表した。評価した127のサンゴ礁生態系のうち122、つまり96%を「深刻な危機」に分類し、2075年までに崩壊するリスクが極めて高いと判定した。2100年までに約2.7℃の温暖化となる中間的な排出シナリオのもとで予測される熱ストレスに基づく評価である。過去50年間に観測された変化だけで見れば、このカテゴリーに入るのは24%である。IUCNはこの分類の意味について慎重で、「『深刻な危機』は崩壊したことを意味しない」としている。ほとんどのサンゴ礁には、まだ生きたサンゴがある。IPCCの2018年の予測では、1.5℃の温暖化でサンゴ礁はさらに70〜90%減少するとされていた。主要な氷床、アマゾン、大西洋子午面循環で転換点を越えるリスクは、オーバーシュートの大きさと期間の両方とともに高まる。

先延ばしの免罪符か
9月の報告書は、同じ結果を望む人々から厳しい批判を浴びた。クライメート・アナリティクスのビル・ヘアは、報告書が「出口があることをうまく示せていない」と述べ、「無関心への呼びかけ」になりかねないと語った。国際環境法センター(CIEL)のリリ・フールは、「被害を最小限に抑える唯一の方法は、いま排出を削減することだ……投機的な技術的解決策で行動を遅らせることではない」と主張した。彼らが懸念しているのは、下降を組み込んだ計画が、のちに約束された除去と引き換えに今日の排出を続ける免罪符を各国政府に与えることである。
これとは別に、二つの疑問がある。一つ目は物理的なものである。シュロイスナーのグループは、オーバーシュート後の気温低下を、想定されている時間スケールの中で当てにすることはできないと結論づけた。二つ目は政治的なものである。スタンフォード大学のロブ・ジャクソンは、オーバーシュートのシナリオについての見方を二つの問いにまとめた。「それが私たちの最大の希望か? 間違いなくそうだ。実現しそうか? 絶対にない」
一つ目の懸念については、批判者とUNEPの算術は同じ方向を指している。報告書自身、除去では「大幅な気温低下は実現できない」と述べている。10月の報告書に寄稿したケイワン・リアヒは、目標はオーバーシュートを「可能な限り低く抑え、後になってこれらの技術に頼って大気からCO₂を取り出す必要がないようにすること」だと語った。いま除去能力を築くことは、純粋に未来への賭けというわけではない。同じ能力が今日の正味排出を減らし、のちにはネットゼロへ向かう途上で残余排出を相殺するからである。
予測が希望の方向に外れたことは、これまでにもある。パリ協定以降、再生可能エネルギーの発電容量は、当時の政策のもとで2015年に立てられた予測のおよそ3倍伸び、エネルギー起源のCO2の増加は予想より40%少なかった。コペルニクス気候変動サービスを率いるカルロ・ブオンテンポは、10月にこう語った。「どれだけオーバーシュートし、それがどれほど続くかは、まだ私たち次第だ」
除去された炭素も、どこかに行き着かなければならない。下降のために取り出す1トンはすべて貯留しなければならず、ネットゼロの世界がなお出し続ける排出を打ち消すために回収される1トンも同じである。地質、環境、人間、政策の面でリスクにさらされる貯留を除外したある慎重な評価では、堆積盆地で利用できる貯留容量はCO2約1兆4600億トンで、物理的な容量のおよそ8分の1である。この推計に従えば、2050年から残余排出が年100億トンのまま続き、それを地下に貯留する除去で相殺した場合、ネットゼロを維持するだけで2200年までにその空間を使い切り、冷却に回す分は何も残らない可能性がある。残余排出を半分の50億トンにすれば、同じ除去で50年かけて気温を約0.1℃下げられる。

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参考図書
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21:01Climate overshoot – when we go past 1.5 degrees there is no going back | New Scientist Weekly 271気候のオーバーシュートと、たとえ気温が下がっても元に戻らない影響を伝えるNew Scientistの動画。この記事の引用
Ingrid Dahl. “1.5℃を超えた世界は、再び冷えることができるのか.” Eikleaf, 2026年10月24日, 更新 2026年10月25日. https://www.eikleaf.com/ja/can-the-world-cool-back-down-after-1-5c/
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メディア
ヘトリスヘイジのカーブフィックスの井戸 – Wikimedia Commons (写真:Siljaye, CC BY-SA 4.0)
フロリダキーズ、チーカ・ロックスのサンゴの白化 – NOAA
主な出典と参考文献
UN Environment Programme. “Limiting Overshoot: Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return.” UNEP, 2 September 2026. https://doi.org/10.59117/20.500.11822/49857
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Dunne, D., Viglione, G., McSweeney, R. “UNEP: Opportunity has ‘been lost’ to meet 1.5C warming limit without ‘overshoot’.” Carbon Brief, 21 October 2026. https://www.carbonbrief.org/unep-opportunity-has-been-lost-to-meet-1-5c-warming-limit-without-overshoot
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Chime, V. “UN sets steep emission cuts to reverse 1.5C overshoot by end of century.” Climate Home News, 21 October 2026. https://www.climatechangenews.com/2026/10/21/un-sets-steep-emission-cuts-to-reverse-1-5c-overshoot-by-end-of-century/
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